研究者ストーリー
Story宇宙の起源を探る挑戦
―開拓研究所から広がる宇宙像―
開拓研究所で”宇宙科学の最前線”を切り拓く、坂井、鈴木、玉川、長瀧の4人の主任研究員。極限環境物理学、地球・惑星生命科学、高エネルギー宇宙物理学、星・惑星形成の研究について語り合うなかで、開拓研究所における分野を超えた自由な交流と融合的な研究環境が、新たな発想や技術開発、そして宇宙像や生命観を一変させるブレイクスルーを生み出す土壌となっていることを、あらためて共有した。
宇宙研究のための、それぞれのアプロ―チ
───まず、皆さんの研究内容を教えてください。
長瀧:私は、大質量星が一生の最後に起こす大きな爆発(超新星)や、宇宙で最も巨大な爆発とも言われるガンマ線バーストについて、理論的な研究をしています。コンピュータシミュレーションを使って爆発の再現を試みており、「星はどんなしくみで爆発するのか?」という宇宙の根本的な謎の解明を探っています。代表的な超新星 SN 1987A については、「爆発は球対称ではなく、ラグビーボールのような爆発形で、更に上下で爆発強度が異なっているだろう」という理論予測を提唱して来ました。我々の理論予想はユニークで、懐疑的な意見も多くありましたが、近年、私たちの理論予測を裏付ける観測結果が幾つも報告されており、嬉しく思っています。ただし、これは「完全に証明できた」というわけではなく、今後の更なる理論研究とそれを裏付ける観測や解析が必要です。
鈴木:私は、地球の地下生命圏に生きる微生物の代謝や生態を研究しています。地球も宇宙の一部であり、岩石・水・大気といった環境で生命がどのように成立し得るのかを理解することは、生命の普遍性を考えるうえで重要です。まだ地球外で生命は見つかっていませんが、地下環境には、岩石と水が反応して生じる水素や、岩石の持つ電気的性質を利用して外部から電子を取り込む微生物など、極めてユニークな代謝の仕組みが存在します。
私の研究では、こうした微生物が「岩石や水が持つエネルギーをどのように生命のエネルギーへと変換しているのか」を多角的に調べています。これらの知見は、初期地球で生命がどのように成立・進化したのかの理解につながり、さらにはアストロバイオロジー(宇宙における生命の可能性)への展開にも寄与できればと考えています。
玉川:私は、X線やガンマ線といった高エネルギー電磁波を用いて宇宙を観測し、天体で起こる極限的な物理現象を明らかにする研究を行っています。大きなテーマのひとつは、宇宙に存在する元素が「どこで、どのような過程で生成され、どれほどの量が作られたのか」を観測的に解明することです。鉄より重い元素の多くは、超新星爆発や中性子星同士の合体といった劇的な天体現象の中で生成されると考えられています。私たちは、衛星によるX線・ガンマ線観測を通じて、こうした元素生成の”現場”を直接とらえることを目指しています。また、もしニュートリノ観測装置が爆発の兆候をとらえた場合には、XRISM(クリズム)衛星のようなX線観測衛星を迅速にその方向へ向け、爆発初期の詳細なフォローアップ観測を行うことも可能になると期待しています。 将来的には、不安定原子核の崩壊に伴って放射されるガンマ線を直接検出し、そこで実際に生成された元素を”その場で”確認できる観測技術の確立にも挑戦したいと考えています。こうした取り組みにより、宇宙における元素合成の全体像に、観測から迫ることを目指しています。
坂井:私の研究は、玉川さんが研究されている元素合成のプロセスで宇宙空間にまき散らされた元素が、その後どのように分子を形成し、あるいは固体微粒子(ダスト)を経て岩石惑星の起源となり、最終的に太陽系のような惑星系となるのか、化学環境まで含めた惑星系形成過程を明らかにすることを目指しています。星・惑星形成における物理進化と化学進化を統合的に理解することが必要です。
このため、JWSTやアルマ望遠鏡といった最先端の観測装置を用いて、星・惑星系の形成領域に存在する分子や固体の性質を詳細に調べています。しかし、観測されたスペクトルを正確に解釈するために必要な、物質ごとの特徴的なスペクトル線を網羅した”辞書”――高分解能分子分光で得られる基礎データ――が圧倒的に足りないという課題に直面しています。
そこで、分子分光装置を開発し、スペクトル線を実験室で精密測定することで、観測研究に不可欠な基盤データの整備にも取り組んでいます。また、観測データはあくまでその瞬間のスナップショットなので、星・惑星形成モデルと化学反応ネットワーク計算を統合したシミュレーションによって、時系列での進化を理解することも重要です。こうした理論的アプローチには、個々の化学反応のレートや分岐比、分子の蒸発温度といった物理化学パラメータの情報も不可欠となります。このため、私たちは、量子化学計算や反応実験、表面科学などの専門家と連携しながら、観測・実験・理論を結びつける橋渡しの役割も担っています。
“異質な繋がり”で生み出すインスピレーション
───開拓研究所ならではの研究環境や、研究者同士のエピソードをお話しください。
玉川:開拓研究所には、非常に幅広い研究分野の専門家が集まっており、その領域の広がりを日々実感しています。異なるバックグラウンドをもつ研究者が同じ空間で議論する機会が多く、日常的なミーティングや、ふとした雑談の中から新しい着想が生まれることも少なくありません。こうした偶発的な対話が、新たな研究展開につながる場面を幾度も見てきました。
理研には複数の研究センターがあり、各センターでは比較的近接したテーマの研究者が集まる傾向があります。一方、開拓研究所では、専門性の異なる研究者があえて同じ組織に集積しており、学際性の高い環境が形成されています。そのため、研究者同士が領域横断的に議論を交わすことで、従来の発想にとらわれない視点や、新たな協働の可能性が生まれやすいことが大きな特徴だと感じています。
坂井:そうですね。私自身、特殊な星間分子の分光が必要になった際、「分析に用いる試料をどのように入手すべきか」と悩んでいたのですが、すぐ隣の研究室に有機化学の専門家がいらっしゃいました。相談してみると、購入先や合成方法まで丁寧に教えてくださいました。またあるときは、「私の”師匠”にも聞いてみます」と、”大御所”の先生を紹介していただいたり、装置を一部使わせていただくこともありました。通常であれば気後れしてしまうような質問であっても、気軽に相談できる雰囲気があります。むしろ先生方のほうが興味を示してくださり、「その分子は何に使うの?」と話が広がることもしばしばあります。質問する側・される側の双方が対話を楽しむ文化が根づいている点は、開拓研究所ならではの大きな魅力だと感じています。
また、まさに今こうして私たち4名が集まって議論できていること自体が、その象徴だと思います。鈴木先生のような生物系の研究者と日常的に接する機会は通常少ないのですが、実際にお話を伺うと、どれも非常に興味深い内容ばかりです。互いに質問を交わし、理解を深め合う機会が自然に生まれ、しかも皆が積極的に応じてくれる——そのような環境が整っていることを強く実感しています。
鈴木:印象に残るやり取りは、坂井さんとの会話の中で、「100ナノメートル程度の微生物ならば、全部、元素として見られるのではないか」と話されたことです。生物学で、その発想はなかった。微生物は生き物であり、遺伝子レベルで解析することに偏りがちです。しかし、「そのサイズであれば、元素単位で解析ができそうだし、全元素を同定できるんじゃない?」と言われ、「そんな考え方もあったか!」と気づかされました。
地下微生物の研究を通じて、生命の起源や進化を理解するには、物質と生命の関係を解き明かすことが不可欠です。科学の進歩は、物質の進化と生命の進化がどのように連動するかを理解することによってもたらされます。分子が作られ、そこからより複雑な分子や構造が形成され、それらが集まって生物の体や構成物質へとつながっていくプロセスを探ることが、私たちの研究の核心だと思っています。
坂井:宇宙では、環境が落ち着いて安定する”平衡状態”になることがほとんどありません。温度や密度が常に変化し続けるため、反応が一様には進まず、場所ごとに物質の組成が少しずつ異なる”勾配”が自然と生まれるのです。こうした状況は、私たち宇宙化学の研究者からすると、ある意味当たり前。非平衡の状態が続くからこそ、物質の状態が急に切り替わる”フェーズチェンジ”が起こったり、層と層の境目のような構造が至るところにできる。これらは、まさに”非平衡の科学”が成せるわざなんです。
鈴木:その宇宙で見られるような非平衡の環境を、生物はうまく利用してエネルギーを取り出しているとも言えます。現在の生物は、環境の中にあるエネルギーをアデノシン三リン酸(ATP)という分子の形に変換して使っていますが、これは”たまたま”その仕組みを獲得した結果です。物質が環境の中で反応を繰り返して進化していく”物質進化”と、生物がエネルギー利用の仕組みを備えて進化していく”生命進化”は、本質的には非常に近いプロセスだと感じます。エネルギーの流れという視点で見ると、両者は地続きの関係にあることがよくわかりますね。
融合的研究プログラムと具体的な共同研究
───どのような共同研究が進んでいますか?
坂井:Kim表面界面科学研究室の金有洙主任研究員らと、物質表面に 1 原子・1 分子を配置し、探針からエネルギーを与えると、それがどのように拡散し、反応し、脱離し、蒸発していくのかを調べる研究を行いました。これは、宇宙空間に存在する塵(ダスト)表面で起きる反応と非常に近い現象で、宇宙の化学進化を理解するうえで大変参考になります。
また、仁科加速器科学研究センターの雪氷宇宙科学研究室(望月研究室)の研究員の方とも、氷の表面を使った反応実験に取り組んでいます。氷表面反応も宇宙化学、特に星間有機分子の生成において重要であり、宇宙の分子進化を研究する上で欠かせない領域です。
玉川:私たちの研究室では、”宇宙利用”の研究も行っています。宇宙からのX線は、地球の大気で吸収されてしまうため、地上では観測できません。そのため、X線望遠鏡は必ず宇宙空間に設置する必要があります。私たちは、こうした宇宙利用の技術や、宇宙で観測を行うための仕組みについても研究を進めています。そうした時、開拓研究所に限らず、理研のさまざまな研究者と連携し、宇宙で科学的観測を行うために必要な技術をどう実現するか、という議論や共同研究を進めます。
地下圏微生物の研究をしている鈴木さんのように、「宇宙で(宇宙をテーマに)科学研究をすると、何か面白いことができそうだ」と考えている研究者との協働の機会をもっと増やしていきたいですね。
鈴木:生物の研究では、私もすごくたくさん共同研究を行っています。例えば、岩崎RNAシステム生化学研究室の岩崎信太郎主任研究員と、RNAや分子レベルの反応の精密解析で協力しています。私は生命全体の振る舞いや生体系といった”マクロな視点”を扱っていますが、最終的にはそれらを構成する要素レベルまで、細かく理解したいと考えています。RNAについて、深い専門性を持つ岩崎先生と協働することで、生命現象の”高解像度化”が進んでいます。
玉川:私たちは、通常はリモートセンシングによって、さまざまな電磁波を用いながら遠方の天体の物質を観測しています。しかし、リモートではなく、惑星や小惑星に実際にセンサーを届けて”直接”計測するというアプローチもあります。鈴木さんの研究室は非常に高い精度の計測技術を持っているので、地上で培われたその技術を宇宙ミッション向けに応用できないか、ということで共同研究をスタートしています。人工衛星や探査機に搭載して宇宙で運用するためには、装置の大幅な小型化が必要になりますが、これが実現すれば、宇宙観測だけでなく地上での分析にも大きな利点があると思います。小型化された装置であれば、研究者が携帯してさまざまな現場に持ち運び、幅広い環境で物質分析を行うことが可能になります。
長瀧:開拓研究所内ですと、例えば玉川さんの研究室とはよく共同研究をしていますね。私が入らない場合でも、うちの研究員が玉川さんの実験グループの研究員と一緒に共同研究をすることもあります。
玉川:私自身は論文の著者に加わっていないけれど、私の研究室の研究員と長瀧さん、長瀧さんが入ってないけれど、長瀧さんの研究室の研究員と私たち――という組み合わせで進めることなど、自由にやっていますね。
長瀧:それから中性子の研究で言うと、濱崎非平衡量子統計力学理研白眉研究チーム(物性研究・非平衡物理)の研究員とともに、中性子星ならではの物性の発現に関する研究を進めています。その方々と、定期的に勉強会や共同論文の執筆など、活発な交流があります。私自身も、そのつながりからの共同研究によって、初めて物性物理の論文の著者に入れていただく機会がありました。
さらに、2013年に「新領域開拓課題」が始まり、最初の採択課題であるiTHESには、開拓研究所の前身のIls(主任研究員研究室群)のメンバーも多く参加していました。iTHESは現在、数理創造研究センター(iTHEMS)として引き継がれています。iTHEMSは理論を研究するグループですが、宇宙だけでなく、原子核、物性、生命など、幅広い分野の研究者達が「1つ屋根の下で密に交流しましょう」という試みです。そこには「共有出来る数理」があり、「共有出来る興味があるはず」という雰囲気もあって、積極的な異分野交流が実現できています。
最近の例で言うと、玉川さんの研究室の研究員のリードに触発され、iTHEMSの研究者も進めている量子機械学習の手法を用いて、「超新星のような突発天体現象を観測データから捉えることができないか」という共同研究を進め、かなり野心的な論文を発表することができました。
物質の進化という共通目標と”自由な思考”の場を創出
───”自由な風土”の中で、どのような成果を生み出してきましたか?
玉川:例えば、先ほど触れた新領域開拓課題「宇宙における物質進化(r-EMU)」では、坂井さんと長瀧さん、そして私の3人で研究を進めていました。当時はまだ鈴木さんが理研に加わる前でしたが、物理・原子核から化学へとつながるテーマを扱っており、将来的には生命科学の視点も取り込みたいと考えていました。原子核から生命へと続く大きな流れを、一つの連続した科学として捉えようとしていたプロジェクトです。
坂井:物質の進化を、素粒子・原子核から、原子、分子、そして最終的には生命の境界にある”生物材料”まで見ていくと、実はすべてが階層構造になっています。それぞれは別の分野に見えますが、本質的には連続したひとつのつながりの中にありますから……。
長瀧:r-EMUは、非常に刺激的な取り組みでした。iTHEMSのような理論中心の枠組みとは異なり、実験系の研究者と日常的に議論を交わせる環境があり、私自身にとっても大きな学びがありました。r-EMUの活動自体は5年間で終了しましたが、そこで培われた研究者間の交流は現在も継続しています。なかでも”連携”を意識した研究で印象深いのは、超新星爆発 SN 1987A における「双極的(bipolar)爆発の中で分子がどのように形成されるか」を理論的に解明しようとしたものです。研究員が中心となり、CO や SiO などの分子がどのような反応経路を経て形成されていくのか、非常に複雑な反応レートを組み込んだ数値シミュレーションを構築しました。その結果、爆発の非対称性を反映して、CO が”ベルト状”に分布する構造が得られました。ちょうど同じ頃、アルマ望遠鏡の観測でもリング状の CO 構造が示唆されており、私たちのモデルが偶然にも、その特徴を再現したことに驚きました。「理論と観測がここまで一致するのか!」と強く感じた瞬間でした。
鈴木:私は現在、「COが生命の材料となる高分子の形成にどのように寄与し得るか」という観点から、惑星生命科学のプロジェクトを進めています。生命の視点から見ても、COは高分子物質の前駆体が生成される上で非常に重要な分子だと考えており、最近になって長瀧さんや坂井さんの研究成果とのつながりを強く感じるようになりました。
坂井:分子進化の観点では、COは宇宙では塵の表面に吸着し、そこでメタノールなどの分子が生成されます。こうした分子同士が反応して、より大きな有機分子が形成されていきます。反応の時間スケールも把握できるため、COは宇宙化学において非常に”クリーン”で扱いやすい基準分子と言えますね。
鈴木:私たち生命科学側でも、COからどのような多様な物質が生み出され、それが生命の化学反応とどのような類似性を持つのかを探索しています。生物がのちに触媒として利用するような反応経路と、無生物の化学反応がどうつながっていくのかを探ることが大きなテーマです。今日のみなさんの話を伺い、物質進化と生命進化がより強く結びついてきたと感じています。
開かれた環境と交流が、研究を次のステージへ導く
───開拓研究所の魅力を、あらためてお話しください。
玉川:理研の中でも、開拓研究所は特に「独自の視点で研究を深めたい」と思う研究者にとって、やはり最高の環境だと思います。自分が本来取り組みたいテーマを存分に追究できるだけでなく、日々の議論や交流の中で、これまで想像もしなかった方向へ発展していく――その可能性に満ちた場だと感じています。
長瀧:開拓研究所は、何よりも”自由”を大切にする組織です。研究者が自分の”夢”をそのまま継続しても良いですし、周囲との交流から新たな方向へ研究を展開していくこともできます。それを選ぶのは研究者自身。開拓研究所の仲間である私たちは、その人自身の意思・意欲を支援するといった風土があります。周囲には、助けてくれる研究者がたくさんいます。分野が近い研究者もいれば、まったく専門が異なる研究者もいます。ただ、皆さんのレベルが非常に高いので、自分の描く研究を実現するうえでは、本当に心強い環境だと思います。
鈴木:自由な発想の中で、若い研究者が数年、本気で向き合えば、必ず何かしらのブレイクスルーは生まれると、私は信じています。そのための環境として、理研は本当に最適です。
研究を進める中で、「自分の視点は正しいのだろうか」と不安になることもありますが、「物理や化学の視点から見てどうか」と、すぐに相談できる人が近くにいてくれます。全く異なる観点から議論することで、同じ現象が違って見えてくることもあるのです。自分自身の好奇心に基づき、自由に発想し、多様な研究者と議論しながらブレイクスルーを生む――その積み重ねが、未来につながる研究を形づくるのではないでしょうか。
坂井:開拓研究所に特別な”形”があるというよりも、ここには「自分のやりたいことをどう実現するか?を一緒に考えてくれる人たちがいる」――そのような点が、本質的な魅力だと思っています。近い分野の研究者だけでなく、遠い分野の研究者とも自然に議論ができる。何か特別な機会を設けて「連携しましょう」と構える必要もなく、食堂などでふと会話したことをきっかけに新しいアイデアが生まれることもよくあります。そうした”日常の中で生まれる連携”が、ごく自然に存在している場所だと思います。
宇宙の真相と生命の可能性の解明に向けて
───今後、10年から20年で研究はどう発展していくのでしょうか。また、今後どのような研究をしたいと考えていますか?
長瀧:10年先と20年先では、見えてくる景色が少し異なると思います。まず、10年スケールでは、重力波天文学、特に重力波を中心としたマルチメッセンジャー天文学が大きく進展し、重力波がとらえる宇宙の範囲がさらに広がっていくでしょう。「中性子星やブラックホールの合体が、どのように光るのか、あるいは光らないのか。」といった現象が、より体系的に理解されるようになるはずです。
また、銀河観測をはじめとする膨大なデータが蓄積され、AI技術の高度化も相まって、統計的な裏付けを基にした、”より精緻な宇宙像”が描けるようになると期待しています。その中で、ダークエネルギーの密度が時間と共に低下し、宇宙膨張の加速度が弱まっていることが決定づけられる可能性もあり、宇宙の理解は一層深化していくと思います。
20年スケールでは、宇宙誕生直後に起こったとされているインフレーション期について、その確定的な証拠をとらえるミッションが成功しているか否かが、非常に興味のあるところです。さらに、量子計算機が飛躍的に発展すれば、現在の古典計算機では到達できない領域の計算が可能になり、理論研究に大きなブレイクスルーをもたらすかもしれません。また個人的には、天の川銀河内で超新星爆発が再び観測され、重力波やニュートリノ観測、更にX線観測に代表される電磁波観測等と、私たちの理論モデルを詳細に比較ができる日が来ることを強く期待しています。
玉川:宇宙観測には、大型衛星でしか実現できない観測もありますが、今後は小型衛星の活用が一気に広がっていくと考えています。私たちの研究室では、小型衛星を複数機打ち上げて宇宙を常時モニターしつつ、大型衛星による高感度観測と組み合わせることで、新しい観測体系を生み出したいと考えています。民間企業による宇宙開発が活発化したことで、小さな装置を迅速に宇宙へ投入できるようになりました。この変化は、宇宙利用全体の裾野を大きく広げています。
また、基礎科学の中には、まだ宇宙環境と十分につながっていない研究領域もあります。無重力や強い放射線といった極限環境と基礎科学を結びつけることで、新しい研究が開拓できると考えています。
開拓研究所では、日々の議論から多様な研究の”種”が生まれていますので、これを活かしながら、小型衛星ネットワークによる常時観測の仕組みを提案し、「新しい宇宙観測」を創り出していきたいと思っています。
坂井:観測データが爆発的に増え、AI技術で何かを抽出する時代になってきていますが、私はむしろ「AIが読み込んでいるデータそのものがどれだけ正確か?」を見極めることが重要と考えています。その判断ができるのは、観測データと理論計算の双方を理解している研究者です。観測装置を宇宙へ送る技術はもちろん重要ですが、そこで得られたデータを”正しく読み解く技術”も同じく重要。そのため、国際協力のもとで「国際共同利用データベース」を整備していく方向に進むのではと考えています。
私の研究で言えば、分子を同定するための”辞書”――分子のスペクトルデータ――が圧倒的に不足しているという課題があります。宇宙観測の分野で世界をリードするためには、正確な基盤データを地道に整え続けることが極めて重要なのです。
鈴木:「宇宙に生物が見つかるはず」とは簡単に言えませんが、最終的な目標のひとつは、”生命が存在する惑星を見つけること”だと思っています。観測技術が向上し、これまでは”生命がいる/いない”の二択だったとして、その2点間の解像度は少しずつ上がってきています。例えば、「酵素のような機能分子が形成されたのか」といった、もう一段細かい生命兆候が見えるようになるはずです。
また、私たちが知るDNA・RNA・タンパク質に依存しない、全く別の種類の生命が存在する可能性もあり得ます。宇宙という別の環境を通じて見ることで、地球だけでは想像できない生命像が見えてくるかもしれません。
私の研究は生命全体や生態系といった大きなスケールを扱っていますが、最終的には一つひとつの要素を丁寧に分解し、高解像度で理解したいという思いがあります。
───異分野の知見の融合で、宇宙の構造や生命の起源の解明が進むことは間違いない。宇宙科学にかかわる研究者たちの挑戦は、これからも続いていく。